部活指導研究協会通信

日々、生徒と真剣に向かい合う部活関係者に送ります。部活動が果たすことの出来る役割を最大限に発揮させるための活動を行っています。

部活動学会第1回研究集会 報告レポート

部活指導研究協会の中屋です。

今回は部活動学会第1回研究集会の報告レーポートです。

当協会も後援団体として参加した部活動学会の研究集会が今月2日に仙台、宮城教育大学で開催されました。

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メディアの取材も多く、注目の集会になりました。
以下、NHKニュースのリンクです。
https://www3.nhk.or.jp/tohoku-news/20181202/0003772.html

テーマは「部活動実践の新展開―『ブラック部活』を乗り越える観点とは―」と題して実践発表と議論がなされました。

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(事務局長としてご挨拶させて頂きました。)

 

 

■まず、会場校の宮城教育大学の准教授の神谷先生の基調講演から始まりました。
(1)自治というキーワード
「部活動における自治と学びを可視化する」と題した基調講演は、本日のキーワード「自治」によって部活動をいかに教育活動として捉えていくかについて、実践に即した提案がなされました。

神谷先生によると、「ブラック部活」という状況は、教師の勤務時間だけの問題ではなく、まさに教育内容の問題で、そこから議論を始めるべきとのこと。

つまり、学校の教育課程は「学習」と「自治」を基本概念として成立しているとの指摘があり、まず、「自治」について現状を把握するための調査が必要であると述べていました。

自治」とは、自分たちに関することを自らの責任において処理することを指しますが、この「自治」を取り入れた運営が部活動の諸問題に対する有効な取り組みとして紹介されました。

(2)自治の第1歩は現状調査から
まずは、現状の部活動の自治の実態がどのよなかたちでなされているかの調査から始まります。これには、神谷先生考案「神谷メソッド」の確認シートの活用が紹介されました。

内容は、「部活動の活動計画は誰が立てているのか」、「会計予算は誰が立てているのか」、「大会出場に出場するかどうかを誰が決めているのか」など、日常的に、部活動で決めなければいけない項目について決定者を特定するものです。

恐らく多くの学校では、顧問の教師が当たり前のことのようにやってきた事柄ばかりだと思われます。

(3)どのように学習と自治を励ますか
部活動の顧問が現状について関係者と情報共有し、さらにこの現状について何をしようとしているのかも可視化することが必要です。

これは、顧問が1人で考え、1人で対応することを止めるということだと思います。そして、生徒を励ます側に立ち、1人で問題を抱え込むことから自ら距離をおいて部活動と向き合う工夫をする。

ただ、顧問と共通の認識を持ち、共通の目的を設定することによって、日常の決定事項を単純に生徒に預けてしまうということではなく、お互いが納得して自治内容を決めるということです。

(4)部活動の評価
教育活動では、子どもが自ら課題に働きかける行為が重視されるべきです。ですから、部活動を大会での戦績のみで評価せず、いかに自分もしくは自分たちで課題を解決したかを評価の中心に置くべきです。

1つの目標に向かって取り組むことから、たくさんの学びはありますが、勝つことだけがその評価の対象になりがちだと思います。やはり、教育活動である限りにおいては、課題への取り組み姿勢や過程を評価することが重視されるべきなのです。

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■学校現場の自治を取り入れた実践報告
山梨英和中学校・高等学校 堀江なつ子先生
「剣道部における自治と学習」
北海道札幌稲雲高等学校 中島憲先生
「高校演劇の1年」
駿河台大学現代文化学部 平野和弘先生
「水泳部における自治と学習」

■シンポジューム
神谷先生がコーディネーターとなり、実践報告された先生方と会場の出席者と議論をしました。

個人的には、駿河台大学の平野先生が、この自治と学習の先駆け的な取り組みを数10年前に、全日制高校と定時制高校で実践されことが興味深く印象に残っています。

平野先生の自治への取り組みの特徴は、「決定権を預ける」というところです。それによって決定する力を育てるという狙いがあるのですが、決定させるまでのプロセスも育てるというところがポイントではと感じました。

もちろん、生徒が決定した事項について教師は勝手に覆すことは出来ません。それには教師も手続きを踏む必要があるのです。これはまさに民主教育であり、社会参加意識の育成に繋がるものでもあると感じました。

民意の形成の手続きを体験させることは、非常に重要なことだと思います。しかし、一方では、指導者側に、「我慢」という力量も求められる取り組みでもあるとも思います。

平野先生の「全ての部活に自治が追求する必要はない。やらざるを得ないという顧問は、自治を考えて活動を考えればいい。」という発言がありました。

さらに「自分で教えられないことのジレンマを持っていた。だからこそ生徒に考えさせることが出来る。」ともおっしゃっておられました。つまり、専門性がないからかそ、自治を活用すればいいので、これも1つの方向として価値ある取り組みではないでしょうか。

今回のテーマ「自治」に根差した部活動は、まさに正論です。現場は綺麗ごとでは済まされないという意見も聞こえてきます。しかし、学校教育では正論の力をもとに教育がなされなくなることは、大きな問題だとも思います。

正論とは、目的に真っ直ぐ向き合ったうえで出された答えであり、学校教育の一環として部活動があるのであれば、その目的から外れないようにその在り方を考えるのは当然です。

自治への取り組みはまさに正論であり、部活動を支える大きな骨組みの1つとして意識を共有すべきであり、今後の展開に注目したいと思います。