部活指導研究協会通信

日々、生徒と真剣に向かい合う部活関係者に送ります。部活動が果たすことの出来る役割を最大限に発揮させるための活動を行っています。

第4回日本部活動学会に参加して~内海和雄教授の講演から~

第4回日本部活動学会に参加して
 3月27日にオンライン開催で、第4回日本部活動学会が開催されました。自由研究発表や部活動研究の専門家によるシンポジウムがあり、充実した内容でした。
 特に印象に残ったのは、一橋大学名誉教授の内海和雄先生の講演でした。始めて聞く方には、刺激的な講演だったのでないでしょうか。いずれにしても、部活動研究では、草分け的な研究者ということもあり、内容の濃い話を聞くことができました。ご著書には、1998年に出版された「部活動改革」があります。
 
■内海先生の主張で大きく頷いた部分2点について
1、国として指導者育成体制に取り組むべき。
 これは、まさに我々、部活研が取り組んでいる方向性そのもので、国や企業には、トップアスリートを宣伝やPRに使うことだけではなく、そのアスリートを育てる仕組みを作り、指導者の意識作りの根本から取り組んで欲しいと思っています。
 基本姿勢としては、部活動指導員を国家資格また公的資格として制度化し、現状のスポーツ・文化が、日本社会に果たしている役割に見合うガバナンス体制を構築されることを願いながら活動をしており、そのための試行的な取り組みが、当協会が主催をしている部活動指導員検定事業になります。
 
2、国の経済規模の割に教育関連、特に部活動関連予算が少ない。
 スポーツや文化活動の社会的な気運や関心の高まりは、経済、政治、教育のプラス面に大きく貢献してしていますが、それに見合う予算が計上されていないのではと思っています。
 例えば、全国の中高全1万5千校に対して部活動指導関連予算として1校に1千万円ずつ計上したとしても、千5百億円です。オリピック予算の10分の1以下です。どうでしょう、部活動の果たしている役割、スポーツ・文化の果たしている経済効果などを考えれば予算規模として想定可能な範囲内と思うのですが。


■以下、内海先生の講演の要点をまとめてみました。
◎戦後の部活動(1950年代〜)
・部活動は、広い深い人格形成の場として承認され、学校教育の中心を占め、イギリスから世界へ普及したもの。
・戦後すぐ「スポーツよって民主主義を植え付ける」という占領軍の方針のもと部活動が推進された。
・自主的なスポーツ活動として始まった部活動には教師は介入しないことが原則だったが、学校も教師も民主的な部活動の運営などほとんどわからないなか、その活動は放置されつつ継続されていった。
・指導者の位置付けや、指導方法なども曖昧な体制だったので、戦前の経験が踏襲され、軍事教練的な上意下達や一方的な命令の指導法が部活動に根付いてしまう。

◎高度成長期の部活動(1970年代〜)
・経済成長とともに、成果主義権威主義が社会の価値観の中心となり、部活動でもより良い結果を出した教員の校内での存在感が大きくなり、「部活人事」という名の下の異動が増えた。
・結果を求める思考の先に、部活動の活動頻度の増加があり、よって教師も生徒も「部活づけ」の状態に陥った。家庭で言う事を聞かない子供の自由な時間を部活で埋めること、つまり「部活づけ」という指導を学校が担うことになる。
・「部活づけ」のもう一方の効果は教員の管理であった。文部省には、日常の多忙によって権利の主張から意識をそらすという意図があったのではないか。
・「生徒の意欲に応えるべきだ」など、部活動の正当性を前面に出し続ければ、教員管理に部活動は有効的に機能した。よって、部活動中の問題については、文部省は分かっていて何もしないという「無策の策」を取り、それが教員管理に最大の効果を生むことになる。そして、予算提示のない答申が繰り返され、部活動問題は深刻化を増していくことになる。

◎国の条件整備のための義務
・スポーツ政策は、福祉政策の一部であり、「Sports for all」の理念の実現に他ならない。現在の日本は、GDPは世界3位だが、予算の使い方は軍事や産業基盤の整備費に偏っている。企業国家であり、軍事国家であり、非福祉国家であると言える。
・国民スポーツの発展に、国家の条件整備の義務として大きく3つある。1)スポーツ施設の整備、2)指導者養成制度の整備、3)地域スポーツクラブ育成
OECD内のGDPにおける教育費の割合は、28か国中24位という低さ。さらに、スポーツ関連予算のGDP比は、日本を1としたら、イギリス10倍、フランス11倍になる。よって、上述の国民スポーツの発展に、国家の条件整備の義務を果たすことは難しい。
・日本国内の地域のスポーツ施設とスポーツクラブは減少傾向にある。このことは国民スポーツの発展にはマイナスであり、医療体制の維持、スポーツする権利の保証を損なうことになる。この状態で部活動の地域移行を考えるべきではない。
・オリンピックのレガシーの中心は何かと言ったら国民スポーツの発展だが今の日本はそれをないがしろにしている。開催都市の東京都でさえ、オリンピックとスポーツの発展を関連付けた政策が見られない。
・部活動の活発化の答えは、1)教員数を増加させる、2)部活動関連予算を増やす、3)部活動指導者の負担軽減、この3点である。
 

f:id:nakaya01:20210411110346j:plain