部活指導研究協会通信

日々、生徒と真剣に向かい合う部活関係者に送ります。部活動が果たすことの出来る役割を最大限に発揮させるための活動を行っています。

部活動のあり方を考える研究集会 テーマ「スポーツ庁の0606運動部活動地域移行提言を読み解く」に参加して

7月23日に日本教育実践研究所主催の「部活動のあり方を考える研究集会」に参加しました。
話し手は、元学習院大学教授の長沼豊先生で、現在は長野県の大日向中学校の校長として教育実践をされておられます。

<「スポーツ庁の0606運動部活動地域移行提言を読み解く」というテーマ>
今回のテーマは、
スポーツ庁の0606運動部活動地域移行提言を読み解く」
ということで、6月に示されたスポーツ庁の提言を確認していくという会でした。

まず、長沼先生の本提言に対する印象として、大変よく考えられていて、概ね方向性に異論はないという発言が冒頭にあり、特に地域展開、全員顧問制の廃止の方向性は、長沼先生が主張してきた事で、ほぼ予想通りに計画が進んでいると感想を述べておられました。

そして、とかくクローズアップされがちな教員の働き方改革だけではなく、部活動自体が、今後加速する少子化により成り立たなくなることは、念頭に置いて考える必要があるとも述べておられました。

つまり、昭和の時代の部活動では、どうにも立ち行かない現実があり、根本的な部分から意識を変える必要があるわけです。

<学習指導要領の記述から部活動が削除される>
そう遠いことではなく、学習指導要領の記述から部活動が削除されることは予想されます。学校から部活動が、離れることについて長沼先生は、学校から部活動が離れることで、今までの学校部活動としてのスポーツ活動、文化活動が、生徒の個々の将来に渡って関わる活動になるので、長い目でみればメリットが大きいとのこと。

まさに、学校部活動で「引退」と言われるなぞの儀式自体がなくなるということで、生涯学習の観点から卒業後も地域との関わり持つことに繋がり、社会教育のテコ入れには重要な役割を果たすものになるでしょう。

そのためにも、教育委員会に加え、自治体も含めて、部活動を街づくりの一環として位置づけて、部活動の地域移行に取り組む必要性があるのです。長沼先生も、街づくりとして行政も自ら音頭を取って部活動の地域展開を進めるべきだと主張しておられました。

<指導者派遣の問題>
やはり、この地域展開を進めるうえ越えなければならないいくつかのハードルがあります。その1つが、指導者派遣の問題です。特に人材不足は深刻な問題です。

この点について、長沼先生は、10年のスパンで指導者を育てるべきだと述べています。そして、10年経てば、育った生徒が指導者となり戻ってくるという好循環が生まれるとのこと。

ここで必要になるのが、中央競技団体の努力になってきます。当然、努力を怠れば競技人口の減少は避けられないわけで、地域の運営だけに押し付けるのはなく、積極的に主体的に仕組み作りに参加すべきと指摘を加えておられました。

また、仕組みの改善として、中体連、高体連が学校単位での参加のかたちを変えることは、既に動きはあるものの、今後の地域移行には、必須条件となることは間違いありません。つまり、学校単位から地域単位への参加が認められる競技大会についての準備が急務なわけです。

<費用の面について>
また、費用の面についても言及がありました。基本的には、今までの教員のただ働きが異常な状態だったことを考えると、ある程度の保護者の費用負担はやむを得ないだろうとのこと。経済的状況による特別措置の必要はありますが、ほぼ無報酬で責任と役割を押し付ける制度を、変える方向は避けられないでしょう。

そのうえで、必要になるのがNPO団体による資金調達です。この点は、長沼先生も強調されておられました。学校から部活動が離れる前提で、指導者は、教員以外の指導者が増え、ゆくゆくは教員の指導者は、かなり少なくなると、長沼先生は予想されています。

つまり、「部活をしたいから教員になった」という教員は、学習指導要領から部活動が削除され、学校から部活動が離れることで、時間とともに数は減っていくと予想されておられました。

ということは、指導報酬は、学校教育としてというより、社会教育に対するものとして支払われるようになると考えるべきでしょう。しばらくは、学校との連携が中心になると思いますが、徐々に社会教育の出番ということになるはずです。もしろん、財源についても、文科省中心から他の省庁を巻き込んだ展開も視野にはいると考えます。

<競技毎に拠点校作り>
最後に、拠点校方式について説明がありました。拠点校方式とは、例えば、サッカー部はA校、野球部はB校という具合に競技毎に拠点校を作り、学校の所属の垣根を越えて部活動に参加する方式です。この方式には、競技別の他に、目的別の拠点校の設定も想定されています。

実は、多くの中央競技団体の運営は、学校の先生方への動員で成り立っています。忙しい教員の休日を利用することも多く、学校教育活動を圧迫している大きな要素であることは間違いないでしょう。これも教員の厚意の上に成り立ってきた制度です。

拠点校方式を採用することで、中央競技団体の運営そのものを根本的に見直す機会となって欲しいと思っています。

部活動改革は、日本のスポーツ、文化活動の整備を睨んだものですが、未来の学校教育の担い手を確保する活動でもあると思っています。何でもかんでも教員に押し付け、一部の教員の不祥事で批判に晒され、辛いことばかりの教員へのなり手が年々減っています。日本の明るい未来のためにも、教育リソースをしっかり確保する体制を期待します。

本研究集会の参加は、たいへん有意義なものでした。