部活指導研究協会通信

日々、生徒と真剣に向かい合う部活関係者に送ります。部活動が果たすことの出来る役割を最大限に発揮させるための活動を行っています。

定時制の部活動から学んだこと ― 部活動が、全ての生徒にとって活躍可能の場になって欲しいという話 ―

 
日本部活指導研究協会を2015年に設立し、部活動指導者の研修会などの開催を続けてきました。活動の原点となった定時制高校の教員時代の話です。

定時制の部活動】
私が現役教員として最後に勤めたのは、2003年池袋という繁華街からほど近くにある公立の商業高校の定時制でした。私にとっては3校目の勤務校でした。残念ながら、18年前に閉校になってしまったので、今はありませんが、いい学校でした。そこの教員として6年間過ごしました。

定時制の部活動は、夜9時までの授業の後から始まり、夜中10時過ぎまでの活動でした。テニス部の顧問をしていたので、ナイターの灯りの下のテニスコートで生徒と一緒に毎晩汗をかいていたことが思い出されます。

生徒は、昼間、働いてる現場の作業着のままの参加でした。ニッカポッカを履きながらラケットを持ってボールを追いかけたり、何というかそれは独特の光景でしたが、皆の笑顔が指導する顧問のやる気の源になっていた事は間違いありません。

【洗礼を受ける】
思えば学校という枠組みに納まりきらないエネルギーを持った生徒ばかりだったので、なかなか指示通りには練習をしてくれず、かと言って放っておくと、想像もしない程の大胆なことを考えて、部活動どころではなくなることがよくありました。

貸し出したラケットを電柱にぶつけて、ラケットを折る競争が始まったり、面白がって夜空に向かってボールを打ち、夜中に雨の様に落ちてくるボールに近隣の家から苦情が来たり。それは、完全に未体験ゾーンでした。

それまで、お行儀のいい生徒ばかりを教えて来たので、正直言って戸惑い方は半端ではなかったです。もちろん、その傍らで地道にコツコツ練習をする生徒もいました。

【興味関心への働きかけ】
この生徒たち皆にスポーツの楽しさ、つまり、技術習得の充実感、挑戦するときめき、目標達成の幸福感、共に悩む仲間と心が通じ合うこと、こんなことを実感させてあげたいと思いながらいろいろな工夫をしました。

目指したのは、強制ではなく、あくまで興味関心から練習に集中してもらう部活動です。そこまで経験した学校では、練習内容について顧問から指示しても、自分たちで考えるよう指示しても、どちらでもうまくやってくれたのですが、ここでは少し違いました。

指示するにしても、考えさせるにしても、面倒だから辞めると言われればお仕舞いです。辞めることによる調査書への影響を考える生徒はほとんどいません。ですから、テニスの魅力を効果的に上手に伝えるスキルは必要でした。

【まずは夢中にさせること】
そんな部活動で、始めたのは、ラケットとボール、そしてテニスコートを使ったごく簡単なゲームと打ち方の練習です。

ネットスポーツというのは、コートに1人上級者が入れば何とかゲームを楽しませることが出来ます。テニスの場合は特に経験者が入らなければ、なかなかゲームは成立しないスポーツでもあり、指導者の役割は大きいスポーツと言えます。

毎日の工夫の甲斐があって、「テニスって、面白れいじゃん」という感想が漏れるようになり、結局、クチコミで近隣の定時制高校の生徒も集まって来るようになって、たくさんの作業着を着た生徒が夜中の部活動に参加するようになり、部として定時制通信制の大会にも挑戦するようにもなりました。

【部活動を考えたこともない生徒たち】
この生徒たちに話を聞いてみると、高校まで文化祭、体育祭、委員会活動などの特別活動に積極的に関わった経験もなく、ましてや部活動など考えたこともないと言います。

その後も練習は、純粋に興味関心をベースにモチベーションに繋げることを狙いながら部活動を出来るだけ多くの生徒に楽しんでもらうように指導していきました。

部活動のためだけに登校する生徒もいたり、日に日にテニスに夢中になる生徒が増えたのですが、一方では、人数が集まると人間関係のトラブルはつきものです。そんな時、集団を引っ張るリーダーと個々の対人関係スキルが必要になりますが、ここでも気づいたことがあります。

【中学と高校の現実的な違い】
これは中学とは大きく違うところなのですが、高校は、多くの場合、受験制度によってある程度学力別に輪切りにされている現実があります。

私の経験上、感じていることですが、学力上位校に中学校でリーダーを経験した生徒が集まる傾向は実態としてあるように思います。

雑な言い方をすれば、半分はリーダー経験者、残り半分はリーダーの経験がなく、リーダーや周りを見て行動して来た、あるいは自分で判断する立場にいないことが居心地がいい生徒たち。

高校までにHR委員、委員会の委員長、班の班長などを経験した生徒が多い学校と、逆に少ない学校では、指導の目標とする基準も自ずと違ってくるのは現実的には仕方のないことではないかと思います。

どうも教育委員会や行政の担当の方々は、進学校の出身の方が多いせいか、どこか偏った意識を感じることがあります。

自主性にこだわるというか、自分たちで考えて動かせたいというか、恐らくそれが出来るのは、全高校の半分くらいで、残りはなかなか難しい状況にあるのが現実だと思います。実際、こんなことは声を大にして言えないので、表面化しにくいことだと思いますが、多くの現場の先生が実感している本音のところだと思います。

【部活動指導で厄介なのは人間関係】
ここまで進学校から困難校まで、様々な高校の部活動を指導してきましたが、部が直面する課題を生徒同士の話し合いによって解決出来る学校ばかりではありませんでした。むしろ、人間関係のもつれで空中分解するケースの方が多い気がします。

現場の先生の本音を言えば、部活動指導で1番厄介なのは、人間関係の交通整理だったりします。

対人関係のなかでの自分の置き方が上手くない生徒は、感情的な解決の方法を選んでしまいます。特に、いろいろな事情があって、ここまでグループのリーダーをした経験のない生徒たちは、その傾向があります。

技術的なアドバイスから安全管理までの知識はもちろん必要ですが、部員の悩みに総合的に包括して、相談に乗ることは一層重要なことだと認識しています。

【教科活動にない部活動の意義を維持するために】
恐らく、この生徒たちは、この部活動がなかったら、一生、テニスに触れることもなく、もしかしたらスポーツに関るチャンスもなく過ごすことになっていたかも、などと思ったりします。私の今の部活動問題への取り組みは、この定時制高校のテニス部の指導が1つの大きなきっかけになっています。
 
つまり、出来るだけ多くの生徒にスポーツや芸術の面白さを正しく経験をさせる場として、部活動を活用したい、そのために教員のなかでやりたいと思っている教員と外部の正しい知識を持った指導者に部活動の指導者として活躍する制度を作る必要があると考えました。

より多くの部活動指導者に適切な研修の機会を増やすことが、スポーツや芸術活動への道筋を作る有効な手立てである部活動を、より健全なかたちで継続することに繋がると考えています。

そして、教科活動で力を発揮出来なかった生徒の活躍の場と機会を部活動というステージを活用し、人生を豊かに送るための基盤になる経験を誰もが実現可能な新しい制度を作りたいと思っています。

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