部活指導研究協会通信

日々、生徒と真剣に向かい合う部活関係者に送ります。部活動が果たすことの出来る役割を最大限に発揮させるための活動を行っています。

「日本中学校体育連盟と全国中学校体育大会の歴史的展開」中澤篤史氏の教育史学会発表より

「日本中学校体育連盟と全国中学校体育大会の歴史的展開」中澤氏のシンポジウムより
 9月に静岡大学で教育史学会が開催され、そのなかのシンポジウムで早稲田大学の中澤篤史先生の研究発表がありました。
 タイトルは「運動部活動はなぜ過熱化したか―日本中学校体育連盟と全国中学校体育大会の歴史的展開」。
◆全国大会を規制するために設立された中体連
 運動部活動と中体連(全国中学校体育連盟)の歴史との関わりを調査した興味深い発表でした。
 設立当初、中体連のある理事の雑誌記事への投稿では、次の様に述べています。
「「学徒の対外試合について」はブロック大会や全国大会が開催されては直接の被害者はわれわれ中学だから、ぜひそうした大会をやらせないように思想統一を計ろうではないか。」
 この記事のこの一節から中体連は、全国大会を規制するために設立されたということが読み取れます。
 全国大会については、運動部活動の過熱化を防ぐためには、全国大会と部活動を切り離すべきという指摘をする部活動研究者が複数おり、教育であるはずの部活動が競争の論理に傾き過ぎて生徒や教師への過剰負担に繋がっている現状が問題視されています。

◆全国大会を主催し大会を促進する団体になった発端は
 さて、1950年代においては、文部省でも全国規模での競技大会を認めておらず、中体連は、その全国大会の動きを規制するために設立されたわけですが、では、なぜ今では全国大会が盛んに行われ、中体連は主催する立場になっていったのか、そこが中澤先生の今回の発表のテーマでした。
 1960年代までは、まだ全国大会は、原則禁止の状態だったのだが、1970年代なって対外試合を学校教育活動内と学校教育活動外に分類したところから、全国大会を許容する空気が流れ始めました。更に学校教育活動外に限って全国大会の開催が認められるようになったというのが事の発端のようです。

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◆平等、公平の観点からの容認へ 
 一方、各都道府県レベルの競技大会は、教育委員会や競技団体からの補助金の増額と共に活発化していきました。
 そんななか全国大会の運営について公平に偏りなく行うように中体連が関与していくことになり、結果的に部活動の活発化の流れととも全国大会を拡大に大きく関わるようなりました。
 技能の競い合いというよりも幅広いすそ野を持つ平等主義を目的として、中体連が全国大会を主催し、参加種目も増やしたのでした。
 そして、1979年の文部省の通達で、学校教育活動内としても全国大会が認められることになり、ここが大きな転換期になりました。

◆全国大会を積極的に主催する現在
 中体連にとっては、全国大会を主催する大義名分は「規模を縮小」して、「過熱させない」のためでした。
 中体連は、競技団体に教育的配慮を欠いた全国大会を開催させないように、自ら全国大会を開催したわけですが、競技大会運営の盛り上がりに押されたかたちで積極的に開催することになり、今日に至っています。
 中学校運動部活動の過熱化の象徴であり、また、参加する中学生の憧れの舞台でもあり、そして、競技大会システムの頂点にあるのが、今日の全国大会です。

◆中澤先生独自の調査
 この中澤先生の研究以前では、運動部活動の全国大会それ自体の変遷はほとんど分析されておらず、どれくらいの学校や生徒が参加して来たのかといった基本的なデータもほとんど把握されていなかったそうです。
 これは運動部活動が課外活動であるため、そのあり方は、国からの政策によって全て規定されているわけではないことから、これまで教職員組合による中体連の全国大会関連の調査が大きな影響を与えて来ました。
 今回の中澤先生が独自に日本中体連事務局所蔵の資料について蒐集し、分析した本発表は、非常に意味深い発表と感じました。

◆全国大会の功罪
 全国大会の何が問題なのか。全国大会を目標に部内が一眼となって協力し、日々の練習に励み、自分を高める大きなきっかけややる気を引き出してくれる等、教育効果は大きいと思います。
 しかし、全国大会で頂点を決めるためには、スケジュール的にトーナメント方式を取らざるを得ないところが大きな問題です。トーナメント方式の様なノックアウトシステムは、1度負ければ次の試合はなく、公式試合の成果がその瞬間に決定してしまうわけです。
 その結果、負けられないという意識の影響で指導者も生徒も勝利至上主義に陥りやすくなります。仮に全国大会がなければ、スケジュールも地域の自由になり、リーグ戦や地域独自の対抗戦なども行えます。そうなると、勝ったり負けたりを繰り返して、そのスポーツ自体の楽しみ方も変わってくるはずです。
 どうしても、日本一を決めたいのではあれば、リーグ戦の成績をもとにプレーオフを開催して決定するということも出来ます。いずれにしても、ノックアウトシステムでの大会システムは、教育現場には馴染まないのではないでしょうか。

今後の中澤先生の研究に注目したいと思います。